2015年6月1日月曜日

箱根の研修と師範審査を終えて

 この時期には珍しくキリッと構える皐月の富士山と、かなり珍しい大涌谷の噴煙に迎えられました。
 初めての箱根研修は、ワクワクとドキドキの入り混じった不思議な感覚でスタートしたのです。新緑のとびっきり美しい道中は、古川師範が同行してくださったので、不安なく箱根観光気分を味わいながらも、翌日の師範審査を想像すると身が引き締まる、そんな繰り返し。会場である花月園に到着したのは、京都出発から4時間後でした。  
 受付を終え、人生の先輩方に混じると真新しい胴着は少し気恥ずかしくもありましたが、鶯の声がこだまする青空の下では、いつの間にか先輩も後輩もなくお互いの写真撮影を楽しんでいました。     

 さあ、レイクアリーナ箱根にて1日目の研修の始まりです。  
 14時:360人での太極拳、八段錦、百花拳は言うまでもなく壮大。学びを重ねてこられた人生の先輩方の決して踏ん張っていない、上手に力を抜いたからこその腰の低さを目の当たりにして、感動と自分の未熟さを痛感しました。  
 それでも、さすがに指導員以上の方々との「気」は気持ちいい!  
 全員が胴着で一体感があったこともそうなのでしょうが、味わったことのない充実感が心にも体にも染み入るのをはっきり感じました。  
 16時30分:3か所に分かれている宿泊先の一つパレスホテルへ移動し、夕食会場では人生の先輩方の経験談や、同じく師範審査を翌日に控えた仲間の方々との和やかな会話と美味しい食事で心もお腹も満腹。本音は早くに休んで明日に備えたいところですが、レイクアリーナに戻り、夕食後の交流会に参加しました。  
 各委員会からの今年度の活動内容が報告されました。恥ずかしながら6つの委員会があることをこれまで認識していなかった私には、各委員会の取り組みについては興味深いものがいくつかありました。これについては改めて機会があれば触れましょう。  
 夜遅くまでの研修の中で、「人生に老後はない、だから生きていくための太極拳がある」私の心をもっとも揺さぶった言葉です。その中身の一つは「息をするとは、息をしていること、生きていること」「気力は眼(まなこ)に出る」「教養は声に出る」「性格は顔に出る」など、170もの教室に3000人の生徒を抱える愛知の土田師範のお話でした。  
 部屋に戻ってからは、緊張を避けるために和やかな会話で、翌日の師範審査について一言も助言をされなかった古川師範の優しさのおかげでグッスリでした。  

 師範審査当日は、朝5時半起床で始まりです。  
 朝陽を浴びようとカーテンを開けると、窓の下では数人が太極拳を舞っているではないですか。さすがに焦りました。6時半からの早朝練習だけでは師範審査に十分では無いのかと。しかし、鶯や野鳥のさえずりの中、野外での早朝練習を数百人で舞っていると焦りは消え、箱根という場所が生み出す特別な爽快感に包まれました。その一方、大涌谷の噴煙がすぐそこに見え、上空を旋回するヘリに緊張していたのも確かです。  
 9時:朝食を済ませ、荷物をまとめてレイクアリーナへ移動。黒帯でギュッと気持ちを引き締め、いよいよ師範審査へ向かいます。  
 今回審査を受けるのは115名。壁に貼り出された3グループの名簿をたどると最後のCグループ28番目に名前を見つけました。  
 各38名のAグループ、Bグループの審査が静粛なアリーナで進み、私の名前が呼ばれ「はい!」と大きくハッキリとした声で息を吐き、右手を高く上げ自分を奮い立たせ誘導された位置へ向かうと、2階席からこちらを見守る古川師範の笑顔をみつけ「いつもの通りに。楽しんでやれば大丈夫。」と、審査前に頂いた温かい応援の言葉にも後押しされ、少しばかりホッとして力みは緩み、いよいよ開始です。  
 91歳とは思えぬ今井治師範の先導に驚きながら、なんと表現すればいいのか「ザザザーッ」と胴着の動く音、「キュキュッ」と足が床をこする音だけが響き渡り、見知らぬ仲間と息を合わせ、同志のような気持ちで心地よい緊張が全身を駆け巡る充実感に包まれました。 それは、今日この場でしか味わえない特別なものとして生涯忘れられそうにありません。  
 終わるとすぐに、見守ってくださった皆様方の拍手が嬉しくてたまりませんでした。  
 総評として、楊慧先生からは「皆さん、よくここまで頑張りました。でも皆さんがここで審査を受けれたのは、皆様を指導し育ててくれた先生方がいたからです。初心者に教えるのは本当に大変なこと。名簿にはそれぞれを指導してきてくださった先生の名前が書かれていたのですよ。皆様もよき指導者としてこれから一緒に励みましょう。」と。  
 楊進先生からは「全体に雑味がなくよかった。雑味がないとは上手く心と体が緩んで力が抜けていたということ。」「全員合格おめでとう!!」張り詰めていた感情と感動が一気に吹き出て、不覚にも「わーっ」と大声を出して泣いてしまい、周りの新米師範にも涙が伝染していきました。箱根という場所が持つ力も影響したのでしょうか?思い出しても自分のそんな感情に驚くばかり。太極拳が本気で好きなようです。  

 経験と継続を重ね続けたその上に「心と技」は磨かれているのだと、人生の先輩方のお姿が教えてくださいました。自分自身を磨いていく道は、学ぶことを怠らず、たゆまぬ努力次第で自分にしか築けないのだと強く感じています。ご指導いただいた先生、尊敬する先輩、ともに励む素敵な仲間のおかげで無事に師範審査を終了できた大山です。皆様、本当にありがとうございました。まだまだ未熟ですが、あったかい仲間に囲まれ幸せ!という気持ちを大切に、「伝えることは、学ぶこと!」経験と継続を重ね太極拳を楽しんでいきます。「健康、友好、平和」自分軸をあらためて正し、新米師範の第一歩が始まります。
2015年5月 楊名時太極拳師範 大山芳乃




 



1 件のコメント:

  1. 毎日一人で練習を重ねるのは良い事です。
    けれど私は毎日はやらなくても週に一度でも仲間と共に練習してほしいと思う。
    なぜなら楊名時太極拳は「心」と「技」の2軸を大切にしているから。。。
    技は一人で磨けても、心は人と交わってこそ磨かれる。

    大山さん、師範審査合格おめでとう。
    師範審査点呼の時、大山さんの返事がピカいちでした。

                                  古川

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